ブラック・ジャックOVAをメスのような切れ味でレビュー

ちょっと前にYouTube手塚プロダクション公式チャンネルOVAブラック・ジャックが期間限定で全話公開されていた
ブラック・ジャックOVAといえば、1993年から2011年という非常に長い年月をかけて展開されてきたアニメシリーズであり、作画や演出は原作とはかなり違っているが、そのクオリティは高く評価されている
全12話+劇場版
そんな名作が、寝る前に布団でなんとなくスマホYouTubeを開いたらオススメに上がってきていた
それを見つけるまでは、手塚プロダクションがチャンネルを開設してることすら知らなかっ
過去に一度だけ見たことがあり、その名作ぶりはもちろん既知であったので、テンションが上がってしまった
ちょうど寝落ち用のBGMを探していたところだったので、その動画を入眠の供とすることにした
そしたら面白すぎて、日中も普通に観始めてしまったよ
というわけで、名作ブラック・ジャックOVAを2周した段階で印象に残った話やシーンについて語りたいと思う!
 
 
まずは第1話

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原因不明、感染経路不明、治療法不明、致死率百パーセントという謎の風土病
老人は死ぬ寸前の自分の身体を切り開いて、真相を確かめるようにブラック・ジャックに依頼する
それでも最後までその病気の全貌は判明しなかった……
……その老人は若い頃に発症したが、故郷を出てからは症状が現れず、老後の帰郷と同時に症状が現れ、さらに他の島民も発症するようになった
一見すると老人のせいで病気が蔓延したように捉えられるが、自分はむしろ老人が故郷を出ていた間その身体に病気を封じ込めていたのではと思えた
つまり老人が発症した若い頃の段階で、本来はは他の者にも感染が進むはずだった
しかし何らかの理由で老人の身体に潜伏していたのだが、歳を取って弱体化して病気を押さえることができなくなった
しかしそれでも死ぬ寸前の自分を資料としてブラック・ジャックに託した……
……この話は「病気と戦うこと、病気と共に生きること」を描いているように思えた
 
 

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第2話にはブラック・ジャックのモノローグの中に、非常に印象的な部分があった

例え親子と言えど命は一人ひとり

人は人の命を救うことなどできはしないと本能的に知っているということだ

人ができるのはその死を悼み、一時涙を流すことくらいだと私も知っている

だから

だからこそ私はこんなことをしているのかもしれない

 その死に対して涙を流すだけでなく、その前に幾らかでも「生かす」ことへの努力をしたという証を残すため

その虚しさに少しくらいの喜びを見出す人間がこの世には存在したって良いと思うから

 この語りは原作の「時には真珠のように」という話で、ブラック・ジャックの恩師の本間丈太郎が残した『人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね………』というセリフへのアンサーのように思える

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人間としての立場を弁えた上で虚しい努力を続けることが彼の医療であり生き方なのかもしれない

  

 

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5話はシンプルに面白い

ミステリーチックな構成で出題と回答が明確に提示されている

そして何よりハートフル

とある村に伝わる唄を唄うことで、そこに住む老人と心を通わせるシーン

その村は内戦によって滅んでおり、老人は最後の生き残りだった

つまりその唄を知っている者は老人1人だけだと思っていたのだ

 

 

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7話も普通に話が面白い

国際医師連盟なる組織の登場、医師免許の有無、執刀の権利など、どことなく医療ドラマっぽい

医者のいない難民キャンプで1人1ドルの借用書(無利子)を書かせ、貧しい難民たちを診療したブラック・ジャック

普段は「私は慈善家じゃない」と言い、高額な治療費を請求する彼だが、こうした人間臭い一面もある

ある意味では医師免許を持ってない彼が、誰よりも自由に医療を行使しているのかもしれない

トランクケース一杯の借用書を見て、1ドル分の価値しかないので捨てようとしたピノ子に対し、「悪いが大事なものなんだ」とブラック・ジャックが制止するシーンもある

地味にOVAで一番かわいいキャラが出てくる

 

 

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8話

一番好きな回

幼い少年の全身に憑りついた蔦は切られようとしている大樹の呪いかと思いきや、自分が枯れる前に昔の約束を思い出してほしいというメッセージだったという超絶ハートフル回

その木を「親友」と呼ぶ一人の老人、アルマンド

道路開通のために木を切ろうとなっても、その決定に最後まで反対する老人

如何にも仙人然とした老人だが、かつては相当なクズで人も殺している

子供の頃には木の声を聞いていたらしく、その木を大変神聖視している

こうして書くとなんともキチガイじみた老人のようだが、アルマンドが行きつけの酒場で、道路工事を進めている役人と遭遇した際の一幕では、

●役人

アルマンドさん

申し訳ないがダメだったよ

なんとかあの木を切らなくて済むように、コースの変更を会議で提案したんだ

だがダメだった

 

アルマンド

そうすか……そうすか……(大量の涙を流す)

一見なんの変哲もないシーンだが、このシーンはアルマンドが初めて敬語を使ったシーンである

それまでのアルマンドの粗暴な印象が、一転して弱々しいものになっていて、それが無性に心に残った

おそらくアルマンドは、役所もそれ以外の村人も、全員が道路の開通を切望しており、伐採は避けられないことを本能的に理解しているのだろう

だから役人には強く当たらない

当たっても仕方ない

もはや泣くしかない

粗暴な印象の中に潜む弱さ、これがアルマンドの大きな魅力である

患者の父親に八つ当たりで突き飛ばされた時も、何も言い返さなかったし

かつて自分に嫌気が差して首を吊ろうとしたが、結局死ねずに生き長らえており、そんな自分に涙を流すというシーンもある

 

 

9話

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個人的に一番おもしろい回

そして一番話が重い

とことん報われない

今回は病気にまったく太刀打ちできず、ブラック・ジャックがほとんど仕事を果たせなかったパターンだが、それだけにとにかく四苦八苦、試行錯誤を重ねて、なんとか病気を解明しようと奔走する姿が盛り沢山に描かれている

そういう過程も医療の一部、ということだ

なぜかやたらとピノコがかわいいシーンが多いのは、本筋の重苦しさとバランスを取るためだろうか?

 

 

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10話は珍しく(というかOVAでは唯一かも?)リハビリのシーンがある

ブラック・ジャックのロマンス展開はOVAを通して様々な女性と繰り広げられているが、この話のヒロインが最も強いフラグを立てていたのではないだろうか

リハビリのシーンでも、患者への思い入れが強調されているように思える

 

 

11話

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美しき姉妹の絆

オカルト VS 医学 って感じの回

この話はピノコが腫瘍から人間になった時の話も見れるので、かなりお得

 

かつて女性は自分の身体から切り離した腫瘍を捨ててほしいと言った

その腫瘍が自分の妹だと知っても、それを受け入れなかった

しかしその一方で妹との約束を果たし、自分達の呪いを解こうとしていた

そしてそのために妹であるピノコが自分の一部を姉に授け、病気を克服

姉妹はそれぞれの道を歩む

腫瘍だった妹が人間として生きていると知った時、女性は妹に会わせてほしい、と頼んだ

しかしブラック・ジャックはそれを拒絶してしまう

そんな彼女の部屋の前にピノコが現れ、二人は障子越しに話をする

姉の方を妹に会わせるのは嫌だが、妹の方から姉に会いに来るのは咎めない、ということだろうか?

 

* 

 

最後に総括すると、OVAブラック・ジャックは8話のアルマンドを筆頭に魅力的なおっさんキャラが非常に多い

ほぼ1話に1人ペースで出てくる

そして作画が劇画調になっていて、全体的に重苦しい

原作や他のアニメ作品と比べると、かなり大人向けのブラック・ジャックと言える

それ故に見応えがあり、人気も高いのかもしれない

 

ちなみに現在、手塚プロダクション公式チャンネルにおいて、OVAスタッフによる劇場版が12/12まで期間限定で公開されている

興味があれば是非ご覧あれ